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東京高等裁判所 昭和61年(ラ)313号 決定

抗告人

右代理人弁護士

小林元

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の要旨は、「原決定を取消し、さらに相当の裁判を求める。」というにあり、その理由は、別紙記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

1  抗告人の抗告理由について

本件記録によれば、原決定は、抗告人は株式会社東京黒鉛満俺製錬所の代表取締役に在任中、昭和五九年二月二〇日取締役A、同B、同X(抗告人)、監査役Cが退任し、法律又は定款に定めた員数を欠くに至つたのにかかわらず、その選任をすることを怠り、昭和六〇年四月二二日にその手続をしたとの理由で、抗告人を過料五万円に処したこと、他方、右会社のもと代表取締役Dは、昭和五七年八月二〇日死亡し、同人が右会社の発行済株式総数の三分の二以上にあたる一万九一二五株を所有し、同人の相続人である妻E、長男抗告人、長女Fの間で遺産分割の協議がととのわず、すみやかに右株式の分割がされなかつたこと、右会社の定款一七条一項によれば、同社の取締役及び監査役は、株主総会において議決権のある発行済株式総数の三分の一以上にあたる株式を有する株主が出席し、その議決権の過半数の決議によつて選任される旨定められていたこと、Dの相続人らは、昭和六〇年四月二二日実質的に遺産分割の合意をし、前記株式についてはEが一万一三四四株、抗告人が四七八一株、Fが三〇〇〇株を取得する旨の合意がされたこと、そして、右同日株主総会が開かれ、新たな取締役及び監査役の選任決議がされたことが認められる。

ところで、商法二〇三条二項によれば、株式が数人の共有に属するときは、共有者は株主の権利を行使すべき者一人を定めることを要する旨規定されており、これを会社に通知することによりこの者が株主の権利を行使することができるのであつて、株式が共有関係にあるからといつて、株主としての権利を行使しえないわけではない。

そして、商法二五八条一項によれば、法律又は定款に定めた取締役の員数を欠くに至つた場合には、任期の満了又は辞任によつて退職した取締役は新たに選任された取締役の就職するまで取締役の権利義務を有する旨規定され、同条二項によれば、この場合において必要と認めるときは、裁判所は、利害関係人の請求により一時取締役の職務を行うべき者を選任することができる旨規定されており、同法二六一条三項、二八〇条一項により右二五八条の規定は代表取締役及び監査役に準用されている。したがつて、抗告人は、これらの規定によつて取締役及び監査役の後任者の選任をすることができたものであり、いつたん抗告人が前記会社の代表取締役に就任した以上、退任した後も後任者の就職するまでその役員が法律又は定款に定める員数を欠かないよう配慮する権利義務があり、これを怠つた抗告人が商法四九八条一項一八号により過料に処せられるのは、やむをえないことといわなければならない。

したがつて、抗告人の抗告理由は採用することができない。

2  そのほか、記録を精査しても、原決定を取り消すに足りる違法の点は見当らない。

3  よつて、原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないから、これを棄却

(裁判長裁判官 佐藤榮一 裁判官 篠田省二 関野杜滋子)

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